足関節の靱帯損傷(あしかんせつのじんたいそんしょう)
内返し捻挫
1.足関節の捻挫の種類
この章では、交通事故における「靱帯損傷」の傷病について、まとめてご紹介します。
交通事故被害者の方は内返し捻挫と外返し捻挫を混同しておられることが多いので、まずはその違いを確認しましょう。
内返し捻挫は、土踏まずが上を向いて、足の裏が、内側方向に向く捻挫です。
この状態を試してみると分かりますが、人間の足の裏は、外側に向きにくい構造になっています。
そこで、交通事故などによって衝撃を受けると内返しに捻ることが多く、外側靭帯を損傷しやすいです。
ただし、交通事故の衝撃はさまざまな方向から伝わるので、受傷の方向によっては外返し捻挫を発症することも、もちろんあります。
2.脚関節の靱帯の種類と構造
人の足首の構造は、下腿骨の脛骨と腓骨で形成される「ソケット」に、距骨がはまるような形になっています。
そして、足首には、外側靱帯(がいそくじんたい)という靱帯があります。
外側靱帯は、前距腓靱帯(ぜんきょひじんたい)、踵腓靱帯(しょうひじんたい)、後距腓靱帯(こうきょひじんたい)の3つの靱帯の総称で、外くるぶしの下に付いています。
前距腓靭帯は、距骨が前に滑らないようにしており、踵腓靭帯は、距骨が内側に傾かないようにしています。
交通事故で足首を捻挫したときには、前距腓靱帯を損傷する頻度が高いです。次いで踵腓靱帯が多く、後距腓靱帯損傷の損傷は少ないです。
以上は足首を支える外側の3本の靱帯ですが、足首には、内側にも1本の扇状の大きな靭帯があります。この内側の靭帯のことを「三角靭帯」と言いますが、これは幅が広く、構造上不安定性が生じることも少なく、損傷しても外科手術が必要になることは滅多にありません。
また、足首には脛骨と腓骨をつなぐ「脛腓靭帯」という靱帯もあります。
3.前距腓靱帯断裂について(ぜんきょひじんたいだんれつ)
3-1.前距腓靱帯断裂とは
交通事故で内返し捻挫をすると、腓骨と距骨をつないでいる「前距腓靭帯」が過度に引っ張られて損傷しやすいです。捻りの程度が強いと、足首外側にある「踵腓靭帯」も損傷を受けますし、ケースによっては、足首の内側の靭帯や足の甲の靭帯を損傷することもあります。
また、内返し捻挫をした場合、靭帯損傷だけでは収まらず、骨折することがあります。特に子供の場合には、靱帯断裂ではなく、剥離骨折(靭帯の付着する骨の表面が剥がれること)してしまうケースが多いので、「たかが捻挫」と考えるべきではありません。
診断の際には、損傷した部位を押してみて、痛みや圧痛が発生しないかを確認します。
骨折については、レントゲン撮影でチェックして、靭帯断裂によって生じる関節の動揺性や不安定性については、ストレスXP撮影で確認します。
また、靭帯の損傷や、骨内部・軟骨損傷を確認するために、MRI検査も実施します。
※ストレスXP検査とは、足首を捻ったり、引っ張ったりしてストレスをかけた状態で、レントゲン撮影する検査です。
以下は、外側靱帯の損傷のグレードとその内容(症状)です。
靱帯損傷の程度(グレード)は、以下の3段階となっています。
- グレードⅠ 靱帯が引き延ばされた状態
- グレードⅡ 靱帯が部分断裂した状態
- グレードⅢ 靱帯が完全断裂した状態
グレードⅢの「靭帯の完全断裂」の場合にはもっとも重傷で、外くるぶしが腫れて血腫が溜まり、痛みが強くなるので歩行は困難となります。
3-2.治療方法
外側靭帯損傷となった場合、早期に適切な治療を行うと、手術なしで完治することが多いため、基本的な治療方法は保存療法です。
保存療法には、「固定療法」と「早期運動療法」の2種類があります。
従来よく実施されていたのは「固定療法」であり、これは数週間ギプス固定をして、改善を目指す方法です。
これに対し、近年主流となってきているのが「早期運動療法」です。
早期運動療法の場合、まずは1~2週間、足関節をギプス固定します。その段階を過ぎるとギプスをカットして、リハビリ歩行を始めます。このとき、足首に負担をかけないように、サポーターを装着して保護します。3ヶ月前後、歩行リハビリを継続すると、特に後遺障害を残さずに治癒することが多いです。
前距腓靱帯断裂となった場合、再発防止のため、足首周辺の「筋力」だけではなく「固有知覚」も回復させることが重要です。
長期間ギプス固定すると、固有知覚が弱まってしまうので、最近では「早期運動療法」が推奨されるようになってきています。
※固有知覚とは、関節の位置を認識できる感覚です。たとえば、今、関節がどの程度曲がっているか、どちらの方向へ力がかかっているか、などを感知し判断するものです。
4.前𦙾腓靱帯損傷について(ぜんけいひじんたいそんしょう)
4-1.前脛腓靱帯損傷とは
交通事故では、前脛腓靱帯という靱帯を断裂するケースもあります。
脛腓靱帯とは、前距腓靭帯よりも、上側にある靱帯のことで、前方のものを「前脛腓靱帯(ぜんけいひじんたい)」、後方のものを「後脛腓靱帯(こうけいひじんたい)」言います。これらの靱帯は、脛骨と腓骨をつないでいます。
脛骨と腓骨は、距骨を挟み込むソケット上の構造となっていて、脛腓靱帯によって、脛腓間を連結しています。しかし、脛腓靱帯損傷によって、脛腓間のつなぎが緩んでしまうと、距骨のスムーズな動きができなくなり、距骨軟骨面が脛骨や腓骨の関節面と衝突し、関節軟骨の骨折や変形が発生する原因となります。
交通事故で転落などすると、着地時に足首を捻ることがありますが、その衝撃により、距骨が脛骨と腓骨の間に入り込むケースがあります。すると、脛骨と腓骨の間が拡がってしまい、2つの骨をつないでいる前脛腓靭帯が損傷を受けます。
前脛腓靱帯損傷の症状は、足首の前方部分の痛みと腫れです。
靱帯が引き延ばされたケースや部分断裂にとどまる場合には、大きな腫れや、強い痛みは発生しませんが、前脛腓靭帯と前距腓靱帯の両方が断裂すると、強い痛みが発生して歩けなくなります。
前脛腓靱帯は、他の靭帯よりもやや上方に位置していますので、触診によってこの部分に圧痛があれば、前脛腓靭帯の損傷が疑われます。
4-2.治療方法
靱帯が引き延ばされた場合や部分断裂などの軽度の場合には、包帯やテーピングなどによって固定して、靭帯がくっつくのを待ちます。
重傷の場合(グレードⅢ)には、腫脹を収めるためにスポンジ圧迫のテーピングを約5日間実施して、その後はギプス包帯による固定をします。しっかり固定しておかないと、靭帯が緩んだまま癒着して、関節が不安定になるので注意が必要です。
この場合、4週間前後で痛みが消失して、6週目くらいからは運動も再開できることが多いです。
前脛腓靱帯と前距腓靱帯の双方を断裂している重傷の場合には、外科手術を実施することが一般的です。
足首の曲げ伸ばしをすると脛腓靭帯結合部が離れて前脛腓靱帯にストレスがかかりますが、そうすると、ギプス包帯で固定しても、断裂した靭帯がなかなかくっつかないので早期運動療法には馴染まないのです。
このような場合、「靱帯再建術」という手術を実施して、その後、時間をかけてリハビリを継続していきます。
5.足関節の靱帯損傷における後遺障害のポイント
5-1.靱帯損傷の望ましい治療方法とは
歩行中や自転車、バイク運転中の交通事故などで足首を捻挫した場合、靱帯損傷をする可能性がありますが、その場合の本来あるべき望ましい治療方法は、以下のようなものです。
病院に行き、まずは、どのような姿勢で捻挫したのか、医師から問診を受けます。
そして、痛みのある場所の触診が行われ、腫れも参考にしながら、どの靱帯が、どのくらい損傷を受けているのか、チェックされます。そして、レントゲン撮影によって骨折の有無を確認し、引きつづいてエコー検査によって「靱帯損傷のグレード」を確認します。
グレードがⅡ、Ⅲの場合には、ギプス固定と早期運動療法が推奨され、医師から治療方針の説明が行われます。
そして、患部をギプス包帯で固定して、松葉杖を貸し出してもらい、初診を終了します。
グレードⅢの中でも腫れが強い場合には、そのまま入院してMRI検査が実施され、「RICE」の処置がなされます。RICEとは、REST(安静)、ICE(冷却)、COMPRESSION(圧迫)、ELEVATION(挙上)のことです。
MRI検査の結果により、ギプス固定+早期運動療法とするか、靱帯再建術とするか、選択されます。
このように対応すれば、靱帯損傷を見逃すことはありませんし、適切な治療を実施することができて、効果的に症状を改善できます。
ただ、実際には、レントゲン撮影のみを行って骨折の有無を確認し、骨折が認められない場合には、「足首の捻挫ですから、しばらく様子を見ましょう」
「湿布を出しますので、当面の間、安静にしてください」
「今日、歩いて帰れますか?もし歩けないなら、松葉杖をお貸しします」
と言われて終わってしまうことがあります。
その場合、症状が悪化してしまうケースがあるので、注意が必要です。
5-2.初期治療が重要
足首を捻挫した場合、重度になると靭帯断裂します。靱帯断裂を見逃して治療せずに放置すると、靭帯の機能が不十分になり、関節の安定性が失われます。
この症状のことを「関節不安定症」と言います。(5月1日掲載 「関節不安定症」ご参照)
足関節不安定症となってしまった場合、この段階から保存治療でギプス固定をしたり、手術によって靱帯を縫合して修復術を実施したりしても、もはや機能しないことが多くなります。
その場合、足首の腱などの組織を移植して靭帯を作り直す手術である「靱帯再建術」が必要となります。
この手術を実施すると、80%以上のケースで足首の安定性を確保できることが報告されていますが、残り20%の例は、好結果が得られていません。
また、靱帯再建術を受けるためには、3ヶ月以上の入院が必要となり、大きな負担が発生します。
初期対応さえきちんとしていれば、保存療法やより簡単な手術で修復可能ですので、交通事故で足を捻挫して靱帯断裂した場合、特に初期治療が重要です。
5-3.後遺障害の立証について
靱帯断裂しても適切な処置を受けられずに放置されてしまった場合、靱帯再建術によって症状の改善を期待できますが、必ず成功するとは限りません。
また、受傷後6ヶ月以上が経過してから再建術をする場合、加害者の保険会社が治療費の負担に消極的なケースがあります。
また、手術のために長期間休業が必要になるため、勤務先から解雇されるケースもあり得ます。
そのようなときには、手術を後回しにして先に「症状固定」してしまい、後遺障害を優先させることも検討すべきです。
このとき、靱帯損傷の後遺障害はMRIやストレスXP撮影によって立証可能です。
足首の機能障害については、背屈、底屈の可動域制限が問題となります。ただ、靱帯断裂の場合、後遺障害の認定要件に達する程度の運動制限が残ることは少ないです。
可動域制限がない場合、痛みの神経症状によって12級13号を目指します。
神経症状の場合、労働能力喪失率が限定されて、逸失利益を減額されることもあるので、しっかりと知識をつけて保険会社との示談を進めていく必要があります。
5-4.示談成立後に外科手術を行う選択肢
外科手術をせずに先に後遺障害等級認定を受けた場合、その後に靱帯再建術のオペを受けることが検討します。
サラリーマンの方などの場合、長期の有給休暇や夏休みなどをとれるなら、入院して手術を受けると良いでしょう。
手術を受けない場合、リハビリによって関節周囲を強化するとともに、テーピングやサポーターの装用によって対処していくことになります。
以上のように、交通事故で靱帯断裂した場合、当初に適切な治療を受けておく必要が高いのですが、そうでなかった場合には後遺障害が残るケースも多くなります。
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