動眼神経麻痺 (どうがんしんけいまひ)
「動眼神経麻痺(どうがんしんけいまひ)」とは、交通事故によって動眼神経(どうがんしんけい)が圧迫を受けて、神経が引き伸ばされてしまった状態のことです。
動眼神経麻痺は、交通事故で眼球そのものを負傷した場合に発症するわけではありません。頭部に外傷を受けた場合や、脳幹部に損傷を受けた場合に発症します。
(1)動眼神経(どうがんしんけい)とは
動眼神経(どうがんしんけい)とは、眼球と脳を結びつける神経です。「第三脳神経(だいさんのうしんけい)」とも呼ばれています。
動眼神経は、「眼球の動きを操作する」という重要な役割を持っています。瞳孔(どうこう)の動きをコントロールするという役割もあります。
(2)症状
動眼神経(どうがんしんけい)が麻痺すると、正面を見ようとしても、眼が外側を向いてしまい、真正面にピントを合わせることが難しくなります。
眼球を思い通りに動かすことができないため、視力が低下したり、物が二重にぶれて見えるようになります。このように物がぶれて見える症状のことを、「複視(ふくし)」と呼びます。
動眼神経が麻痺してしまうと、内側(鼻側)のものを見ようとしても、眼球を中央までしか動かすことができません。上下方向には全く動かすことができません。
また、両目を同じ方向に動かすことができなくなります。下記のイラストのように、別方向に黒目が動くようになります。
動眼神経は、瞳孔(どうこう)の動きもコントロールもしています。このため、動眼神経が麻痺すると、瞳孔が散大してしまい、瞳孔が収縮しなくなります。
瞳孔が収縮しないため、眼球に入ってくる光の量が必要以上に多くなり、電球の光や太陽の光を今までよりもまぶしく感じるようになります。
さらに、動眼神経は、まぶたを動かす筋肉をつかさどっています。このため、動眼神経が麻痺すると、自力でまぶたを挙げることができなくなります。目が覚めている状態でも目を完全に開くことができなくなり、常にまぶたが垂れ下がった状態になります。
(3)眼球の筋肉
眼球を動かす筋肉のことを、外眼筋(がいがんきん)と呼びます。外眼筋は、合計6種類あります。
下記のイラストは、6種類の外眼筋を表したものです。
6種類の外眼筋(がいがんきん)
これらの6種類の筋肉は、「動眼神経(どうがんしんけい)」「滑車神経(かっしゃしんけい)」「外転神経(がいてんしんけい)」という3つの神経によって動かされています。
動眼神経は、「内直筋(ないちょくきん)」「上直筋(じょうちょくきん)」「下直筋(かちょくきん)」「下斜筋(かしゃきん)」という4つの外眼筋(がいがんきん)を支配しています。
さらに、動眼神経は、「上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)」も支配しています。上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)は、まぶたを挙げる役割を持っています。このため、動眼神経が麻痺すると、まゆげが垂れ下がってしまいます。このような症状を「眼瞼下垂(がんけんかすい)」と呼びます。
(4)動眼神経麻痺(どうがんしんけいまひ)の後遺障害
動眼神経麻痺(どうがんしんけいまひ)の後遺障害には、主に4種類あります。
「眼球の運動障害」と「自律神経の障害」と「まぶたの運動障害」と「醜状障害(しゅうじょうしょうがい)」です。
それでは、順番に説明していきましょう。
①眼球の運動障害
眼球は、6種類の筋肉と3種類の神経によって動かされています。これらの筋肉や神経に異常や麻痺が生じると、眼球を自由に動かすことができなくなります。
動眼神経(どうがんしんけい)を麻痺した場合は、真正面を見ようとしても、眼球を中央に動かすことができず、眼球が外側(耳側)に偏ってしまいます。
このように、眼球を自由に動かすことができない状態が後遺症として生じた場合は、「眼球の運動障害」として申請することができます。
眼球の運動障害は、下記の表に照らし合わせて等級が決定されます。
運動障害の程度が「著しい」といえるかどうかは、ヘスコオルジメーターによって計測します。眼球の注視野(ちゅうしや)の広さが2分の1以下まで低下している場合は、「著しい障害である」と判断されます。
注視野(ちゅうしや)とは、「頭を固定した状態で、眼だけを動かして直視できる範囲」のことです。注視野の測定は、下記のような「視野計」を使って測定します。
ゴールドマン視野計
注視野(ちゅうしや)は、正常な状態であれば、片眼だけで各方向に50度です。両眼であれば、各方向に45度です。これよりも2分の1以下の角度しか見ることができない場合は、「著しい障害である」と認定される可能性が高くなります。
上記の計測によって、「眼球の運動障害には該当しない」と判断された場合であっても、あきらめる必要はありません。
運動障害の等級認定を受けることができない場合であっても、複視(ふくし)の症状が認められるときは、その程度に応じて後遺障害の等級が認定される可能性があります。
複視(ふくし)とは、物がぶれて見える症状のことです。
複視には、2種類あります。「正面視での複視と「左右上下での複視」です。どちらの種類なのかによって、後遺障害の等級が決まります。
正面視での複視は、深刻な頭痛や眩暈(めまい)の原因となります。このため、日常生活や業務に著しい支障をきたすものとして、後遺障害等級10級2号の対象となります。
左右上下での複視は、軽度の頭痛や眼精疲労(がんせいひろう)の原因となりますが、正面視の複視ほどの大きな支障はありません。このような症状は、後遺障害等級13級2号の対象となります。
複視の検査は、ヘスコオルジメーター(ヘススクリーンテスト)によって行われます。複像表のパターンによって、複視かどうかの診断を行います。
ヘスコオルジメーター
複視の等級認定を受けるためには、以下の3点がポイントとなります。
・被害者自身が複視の症状を自覚していること
・複視の原因となる症状が明らかに存在していること(眼筋の麻痺など)
・ヘススクリーンテストによって複視の存在が証明されていること
②自律神経の障害
動眼神経(どうがんしんけい)には、自律神経としての働きがあります。自律神経としての主な作用は、「縮瞳(しゅくどう)」です。縮瞳(しゅくどう)とは、光が眼球に入ってきたときなどに、瞳孔(どうこう)を収縮させることです。
瞳孔は、通常は光に反応して収縮します。暗闇で光を付けたときに、すぐに明るさに慣れることができるのは、瞳孔が収縮して眼に入ってくる光の量を調節するからです。
動眼神経が麻痺すると、瞳孔が散大してしまい、眼球に入ってくる光の量を調整することができなくなります。今までよりも光をまぶしく感じるようになり、明るい場所で近くのものを見ようとしても、ピントを合わせることができなくなります。
交通事故で顔面に外傷を負った場合は、瞳孔が開いたままの状態になることがあります。このような症状を、「外傷性散瞳(がいしょうせいさんどう)」と呼びます。
このような瞳孔の異常は、交通事故の後遺障害として申請することができます。
瞳孔の対光反射(たいこうはんしゃ)が著しく制限されており、労働に著しい支障をきたすような深刻なケースであれば、後遺障害の対象となります。片眼の場合は後遺障害等級12級に、両眼の場合は11級に該当する可能性があります。
瞳孔に関する後遺障害は、ハロゲン・ペンライトによる対光反射検査(たいこうはんしゃけんさ)で立証します。
③まぶたの運動障害
まぶたの運動障害は、顔面や側頭部(そくとうぶ)を強打し、視神経(ししんけい)や外眼筋(がいがんきん)を損傷したときに発症します。
「まぶたの運動」には、3つの種類があります。
・まぶたを閉じる=眼瞼閉鎖(がんけんへいさ)
・まぶたを開ける=眼瞼挙上(がんけんきょじょう)
・瞬き(またたき)=瞬目運動(しゅんもくうんどう)
この3つの運動機能のいずれかに障害が残った場合は、「まぶたに著しい運動障害を残すもの」として後遺障害の対象となります。
片眼だけに障害が残った場合は、後遺障害等級12級2号に認定される可能性があります。両眼であれば、後遺障害等級11級2号の対象となります。
病名としては、「動眼神経麻痺(どうがんしんけいまひ)」「ホルネル症候群」「眼瞼外傷(がんけんがいしょう)による上眼瞼挙筋損傷(じょうがんけんきょきんそんしょう)」「外転神経麻痺(がいてんしんけいまひ)」を発症した場合に、まぶたに運動障害が残ることが多いといわれています。
④醜状障害(しゅうじょうしょうがい)
まぶたに損傷を受けて傷あと等が残った場合、「外貌(がいぼう)の醜状障害(しゅうじょうしょうがい)」として後遺障害を申請することができます。
醜状障害(しゅうじょうしょうがい)とは、外観上目立つ場所に傷あと等が残った状態のことです。
醜状障害(しゅうじょうしょうがい)に当たると判断されれば、後遺障害等級12級14号の対象となります。傷あと等が大きい場合は、後遺障害等級9級16号に認定される可能性があります。
まぶたに運動障害と醜状障害の両方が残った場合は、「運動障害」と「醜状障害(しゅうじょうしょうがい)」の双方の観点から、後遺障害を申請することができます。どちらも後遺障害として認められれば、より上位の等級が認定されます。
例えば、醜状障害が12級相当と判断されて、運動障害が11級相当と判断されれば、より上位である11級に認定されます。
いずれの後遺障害に認定されるかどうかによって、示談金が大きく変わる可能性があります。個別事案によって金額は異なりますが、弁護士が交渉した場合は、後遺障害等級12級であればおよそ500万~1,000万円程度の示談金となる可能性があります。
後遺障害等級11級のケースでは、弁護士が交渉した場合の示談金の相場はおよそ1,000万〜2,500万円程度です。つまり、いずれの後遺障害に認定されるかどうかによって、示談金が大きく変わる可能性があります。
このため、当事務所で後遺障害の申請をする際には、お客様がより上位の等級を獲得できるように、「運動障害」と「醜状障害(しゅうじょうしょうがい)」の双方の観点から申請を行っています。
なお、上記はあくまで参考として挙げた金額ですので、個別事案によって具体的な金額は異なります。具体的なアドバイスをお聞きしたいという方は、一度当事務所までご相談ください。交通事故のご相談は初回は無料で受け付けておりますので、ご予算を気にすることなくお気軽にご相談ください。
(5)後遺障害を申請する際のポイント
動眼神経麻痺(どうがんしんけいまひ)の後遺症には、さまざまな種類があります。後遺障害等級も多くの種類に分かれています。
このため、動眼神経麻痺の後遺障害を申請する際には、被害者の方にどのような症状が出ているかを詳細に分析したうえで、多くの等級の中から適切な項目を選び出すことが必要となります。
症状によっては、1つの項目に限定して申請するのではなく、いくつかの項目を並行して申請できることがあります。
ただし、複数の項目を一度に申請すると、審査に時間がかかるなどのデメリットもあります。どのような申請を行うべきかは、被害者の症状に即して臨機応変に判断しなければいけません。
このように、動眼神経麻痺 (どうがんしんけいまひ)の後遺障害を申請する場合は、さまざまな事情を考慮したうえで専門的な判断を行うことが必要となりますので、交通事故に精通した弁護士にご依頼されることをお勧めいたします。
当事務所にご相談していただければ、お客様の症状を具体的に分析したうえで、障害診断書を作成する際のポイントについて法律的な観点からアドバイスいたします。
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