後遺障害事例

滑車神経麻痺 (かっしゃしんけいまひ)

滑車神経麻痺(かっしゃしんけいまひ)とは、交通事故によって滑車神経(かっしゃしんけい)が圧迫を受けて、神経が引き伸ばされてしまった状態のことです。

交通事故では、バイクの運転者が頭部に外傷を受けた場合や、側頭骨(そくとうこつ)や眼窩壁(がんかへき)を骨折した場合に、発症することが多いといわれています。

滑車神経を麻痺すると、左右の眼球を同じように動かすことができなくなります。下記のイラストのように、眼球が異なる方向に動くようになり、対象物にピントを合わせることが難しくなります。

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(1)滑車神経(かっしゃしんけい)とは

目を動かす神経には、3種類あります。「動眼神経(どうがんしんけい)」と「滑車神経(かっしゃしんけい)」と「外転神経(がいてんしんけい)」です。

滑車神経は、眼球を動かすための運動神経です。「第4脳神経(だいよんのうしんけい)」とも呼ばれています。

滑車神経は、上斜筋(じょうしゃきん)を動かすという役割を持っています。上斜筋とは、眼球を内側(鼻側)に沿って下に向けるとき、つまり自分の鼻を見るときに働く筋肉です。

下記のイラストを見てください。イラストの右上部分の筋肉が、上斜筋(じょうしゃきん)です。

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(2)症状

滑車神経(かっしゃしんけい)を麻痺すると、左右両方の眼を同じ方向に動かすことができなくなります。片方の眼で見ている像が、もう片方の眼で見て見ている像よりも、少しずれて見えるようになります。

このように、ものが二重にぶれて見える症状のことを「複視(ふくし)」と呼びます。

           249-3

症状が軽いケースであれば、頭を傾けると複視を打ち消すことができます。頭を傾けた状態であれば、麻痺していない筋肉を使うことができるため、両眼の焦点を合わせることができるからです。

また、滑車神経を麻痺すると、眼球を内側(鼻側)の下方に動かすことができなくなります。このため、正面の下方向の視野がさえぎられるようになり、階段を降りるときや、正面に落ちている物を拾うときなどに、不都合を感じます。

 

(3)治療

滑車神経麻痺の検査は、CT(スキャン)やMRI検査によって診断を行います。

一般的な治療としては、プリズムレンズの眼鏡(めがね)を用いて視力の補正を行います。ただし、この補正方法では視野が傾くことを補正できないというデメリットがあります。

症状によっては、眼球の体操を行うことで症状が改善します。ただし、眼球の体操のみで症状が完全に治ることはありません。

症状を完全に改善するためには、手術を行うことが必要です。滑車神経麻痺の手術では、上直筋(じょうちょくきん)の下方の筋肉を縫合(ほうごう)します。

縫合手術を行った場合は、およそ90〜95パーセントの確立で、正面視での複視が消失します。

 

(4)後遺障害

眼球の運動に障害が残ったとしても、上斜筋(じょうしゃきん)の運動機能にしか障害が残らなかった場合は、後遺障害の対象となりません。

ただし、複視(ふくし)の症状が残った場合、その程度に応じて後遺障害に認定される可能性があります。複視(ふくし)とは、物がぶれて見える症状のことです。

           249-3

複視には、2種類あります。「正面視での複視と「左右上下での複視」です。どちらの種類なのかによって、後遺障害の等級が決まります。

無題

正面視での複視は、深刻な頭痛や眩暈(めまい)の原因となります。このため、日常生活や業務に著しい支障をきたすものとして、後遺障害等級10級2号の対象となります。

左右上下での複視は、軽度の頭痛や眼精疲労(がんせいひろう)の原因となりますが、正面視の複視ほどの大きな支障はありません。このような場合は、後遺障害等級13級2号の認定の対象となります。

複視の検査には、ヘスコオルジメーター(ヘススクリーン)を使用します。複像表のパターンによって、複視かどうかの診断を行います。

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                ヘスコオルジメーター

ヘススクリーンテストによって、正面視で複視が中心の位置にあることが確認された場合は、「正面視で複視を残すもの」の対象となります。それ以外のものは、「正面視以外で複視を残すもの」に分類されます。

 

(5)後遺障害を申請する際のポイント

滑車神経麻痺の後遺障害は、複視(ふくし)が中心となります。複視の等級認定を受けるためには、以下の3つがポイントとなります。

 ①被害者自身が複視の症状を自覚していること

 ②複視を残す明らかな原因が認められること(眼筋の麻痺など)

 ③ヘススクリーンテストによって複視が証明されていること

さらに、複視の後遺障害を申請する際には、もう一つ重要なポイントがあります。「後遺障害が交通事故によって生じた」ということを他覚的所見によって証明することです。

複視の症状は、さまざまな原因によって生じることがあります。糖尿病や高血圧が原因となって複視を発症することもあります。交通事故が原因で生じるとは限らないのです。

このため、後遺障害を申請する際には、「交通事故が原因となって複視を発症した」ということを、他覚的所見によって証明しなければいけません。

他覚的所見とは、「医学的な見解によって、客観的に症状を説明すること」です。他覚的所見の反対は、自覚症状です。自覚症状は、被害者の方ご自身が「ぶれて見える」「よく見えない」と主観的に意見を述べることです。

交通事故の後遺障害の申請では、公平な審査を行うために、「他覚的所見によって客観的な裏付けがされているかどうか」が重要視されます。

他覚的所見がなければ、「自覚症状しかないので信用できない」と判断されてしまい、後遺障害の等級認定を受けることはほぼ不可能となります。

このため、後遺障害の審査では、「医師による後遺障害診断書」が非常に重要な意味を持ちます。後遺障害診断書とは、「後遺症として具体的にどのような症状が生じているか」について、病院で記載してもらう書類です。

滑車神経麻痺の後遺障害診断書は、病院で作成してもらいます。一般的には、医師が記載します。医師は、医学的な観点から診断書を記載しますが、法律的に重要なポイントを念頭に入れて記載を行うことはありません。

つまり、医師は「どのような記載をすると示談の際に有利となるのか」を考慮に入れて診断書を記載をするわけではありません。示談の際に有利となる症状があったとしても、医学的に重要な事項でなければ、医師が診断書に記載しないおそれがあります。

このため、後遺障害診断書を作成する際には、法律の専門家である弁護士に依頼することをお勧めいたします。どのような記載をすると示談の際に有利となるかについては、法律の専門家である弁護士が熟知しています。

滑車神経麻痺の後遺障害を申請する場合は、病院に後遺障害診断書を持っていく前に、当事務所までご相談ください。当事務所にご相談していただければ、お客様の症状を具体的に分析したうえで、法律的な観点からアドバイスいたします。

カルテなどの医療記録をお持ちいただければ、後遺障害診断書を作成する際のポイントについて、弁護士が責任を持って説明いたします。

 

(6)眼球の運動障害を併発している場合

滑車神経麻痺を発症した場合、「複視(ふくし)」と「眼球の運動障害」の両方が後遺障害として生じることがあります。

このような場合は、「複視(ふくし)」と「眼球の運動障害」の双方の観点から、後遺障害を申請することができます。どちらも後遺障害として認められれば、より上位の等級が認定されます。

無題

例えば、複視(ふくし)が13級相当と判断されて、運動障害が12級相当と判断されれば、より上位である12級に認定されます。

いずれの等級に認定されるかどうかによって、示談金が大きく変わる可能性があります。個別事案によって金額は異なりますが、後遺障害等級12級であれば、弁護士が交渉した場合はおよそ500万~1,000万円程度の示談金となる可能性があります。

一方で、後遺障害等級13級のケースでは、弁護士が交渉を行ったとしても示談金の相場はおよそ300万~500万円程度です。つまり、12級に認定されるか13級に認定されるかによって、示談金が大きく変わる可能性があります。

このため、当事務所で滑車神経麻痺の後遺障害の申請をする際には、お客様がより上位の等級を獲得できるように、「眼球の運動障害」と「複視の後遺障害」のどちらが認められるかを詳細に分析したうえで、どちらも認定される可能性があれば、双方の観点から後遺障害の申請をいたします。

ただし、複数の項目を一度に申請すると、審査に時間がかかるなどのデメリットもあります。どのような申請を行うべきかは、被害者の症状に即して臨機応変に判断しなければいけません。

 

眼球の運動障害を併発している可能性がある方は、当事務所までご相談ください。

 

(7)弁護士に依頼することの重要性

滑車神経麻痺の検査は、CT(スキャン)やMRIなどの検査によって行われます。このため、後遺障害を申請する際には、CT(スキャン)やMRIなどの医学的検査の資料を添付することが必要となります。

ただし、上記のいずれの資料が重要なポイントとなるかは、被害者の症状によってケースバイケースです。症状によっては、CT(スキャン)が有利な証拠となる場合もありますし、MRIが有用な証拠となる場合もあります。

このため、滑車神経麻痺の後遺障害を申請する場合は、交通事故に精通した弁護士にご依頼されることをお勧めいたします。ご相談の際にCT(スキャン)やMRIなどの医療記録をお持ちいただければ、弁護士が責任を持って資料を精査して、いずれの資料がお客さまにとって有利な証拠となるのかについてアドバイスいたします。

当事務所では、福岡のみならず、全国からたくさんの方々にご相談やご依頼をいただいております。交通事故のご相談は初回は無料で受け付けておりますのでご予算を気にすることなくお気軽にご相談ください

 

 

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