脊柱の圧迫骨折(せきちゅうのあっぱくこっせつ)について
1.脊柱の圧迫骨折とは
脊柱の圧迫骨折とは、背骨が圧迫されて折れることです。
交通事故が起こったとき、自動車やバイクの横転や転倒などにより、強く尻もちをついたときに発症する例が多いです。
脊椎を構成している「椎体」に対し、縦方向の重力がかかったとき、背骨が上下に押し潰されるので圧迫骨折してしまうのです。よく骨折が起こる部位は、第11胸椎、Th11~第2腰椎、L2です。
レントゲンによる側面像により、脊椎の椎体前方、腹側が、楔状に変形しているのを確認することができます。
重度な骨粗鬆症の高齢者の場合、軽微な追突事故であっても、胸椎や胸椎と腰椎の間の部分で圧迫骨折が起こることがあります。その場合には、損害賠償請求をするときに、素因減額されやすいです。
なお、高齢で背中が丸まっている方がいますが、これは、胸椎部分で自然に発症した多発性圧迫骨折が原因です。
圧迫骨折をした場合、骨折した部位の形状は、将来、完全ではないにしても、やや元に戻ることがあります。骨を構成する組織は、日々新しく作られているためです。特に若い人の場合、時間の経過によって仮骨が形成されて、ある程度までは戻りやすいです。
2.脊柱の圧迫骨折の治療方法
交通事故によって脊柱の圧迫骨折が起こったとき、骨折部が安定している場合には、入院をしてギプスやコルセットで固定して、仮骨の形成を待ちます。
骨折部が不安定な場合には、外科手術を行います。
上肢や下肢に麻痺が残った場合には、装具を使ったり、リハビリ治療をしたりして、改善を目指します。
高齢者に圧迫骨折が発生した場合、短期間はベッド上で安静にした上で、骨の癒合を待ちます。
このとき、コルセッ卜やギプスを巻き、体を動かしたときの痛みを和らげるようにします。
椎体の骨折が酷く、骨片が椎体の後ろにある脊髄や神経根を圧迫していて、下肢の感覚がなくなっていたり、力が入らなかったりするときには、手術によって圧迫されている神経を解放します。
骨粗鬆症の程度が酷く、数カ月が経過しても骨が癒合せず、疼痛が和らがないときには、人工骨や骨セメントを注入する方法で治療を行います。
① ② ③
①骨折部にバルーンを挿入→②バルーンを膨らませて骨折部を持ち上げる→③骨セメントを充填する
3.脊柱の圧迫骨折における後遺障害のポイント
3-1.圧迫骨折で認定される後遺障害の等級
脊柱の変形による後遺障害は、以下の3つです。
①脊柱に著しい変形を残すもの、
- 脊柱に中程度の変形を残すもの、
- 脊柱に変形を残すもの
弁護士としての経験上、最も症例が多いのは「脊柱に変形を残すもの」であり、これは、次のいずれかに該当するものを言います。
- 脊椎圧迫骨折等を残していて、そのことをレントゲン検査などによって確認できる、
- 脊椎固定術が行われた
- 3椎以上の脊椎にき、椎弓切除術などの椎弓形成術を受けた
つまり、脊柱の変形や運動障害によって後遺障害等級を認定されるためには、レントゲンではっきり脊柱の圧迫骨折や破裂骨折が認められるか、脊椎の固定術を受けている必要があります。
3-2.圧迫骨折のレベル
結論
圧迫骨折で後遺障害等級が認定されるためには、椎体の 25 %以上の圧壊があることが必要です。
解説
圧迫骨折を判定するときには、日本骨形態計測学会・日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会・日本医学放射線学会・日本整形外科学会・日本脊椎脊髄病学会・日本骨折治療学会による椎体骨折評価委員会が定める「椎体骨折評価基準」という基準が参考になります。
まず、椎体骨折には、以下の3つの症状があります。
- 椎体の前縁の高さが減少する「楔状椎」
- 椎体の中央がへこむ「魚椎」
- 椎体の高さが全体にわたって減少する「扁平椎」
上記基準の2012年度の改訂版によると、C/A、C/Pのいずれかが0.8未満(扁平椎のケース)、またはA/Pが0.75未満(楔状椎間)のケースについて「椎体骨折」としています。
椎体の高さが全体的に減る「扁平椎」のケースでは、上位や下位のA、C、Pよりそれぞれ20%以上減少(0.8未満)しているときに「椎体骨折」となります。
外傷性の圧迫骨折の場合には、多くのケースで楔状椎変形になりますので、A/P比で25%以上減少(0.75未満)したときに圧迫骨折と言えることになります。
この25%という数値は、労災保険の障害認定必携や自賠責保険の規定集には記載されていませんが、先に紹介した評価基準とこれまでの経験則によるもので、1つの目安です。
椎体が、少しだけ変形した場合でも、医学的には「圧迫骨折」となりますが、交通事故の後遺障害としては認められません。
3-3.新鮮骨折か、陳旧性か
骨粗鬆症の高齢者は、軽く尻もちをついただけで圧迫骨折することがあります。
そこで、交通事故で後遺障害認定を行う自賠責調査事務所は、認定に際し、新鮮な骨折か、陳旧性のものかに着目します。
陳旧性と判断されると、後遺障害は非該当となります。
第11胸椎圧迫骨折
T1強調画像 T2強調画像
新鮮な圧迫骨折の場合、MRI撮影をすると、出血の影響で、椎体が他の椎体とは異なる濃度で描き出されます。そこで、受傷直後のMRIにより、元からあった陳旧性骨折か、新鮮骨折かを判断することができるのです。
上記は、62歳女性の第11胸椎圧迫骨折(新鮮骨折)のMRI画像です。左のT1強調画像では、一部が黒くなっていて、右のT2強調画像では、一部が白くなっています。
このようなことを、専門的には、「T1強調において低輝度、T2強調において高輝度がみられる」と言います。この場合、新鮮骨折として、後遺障害として認定されます。
以上のように、圧迫骨折のケースでは、受傷直後のMRI撮影によって、新鮮骨折である証拠を残しておかなければ、後遺障害として認定されないケースもありますので、後遺障害の申請をお考えの方は弁護士にご相談ください。
アジア総合法律事務所では、福岡のみならず、九州、全国からご相談やご依頼を受け付けておりますのでお気軽にご相談ください。
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