外傷性白内障 (がいしょうせいはくないしょう)
外傷性白内障(がいしょうせいはくないしょう)とは、水晶体が白く濁って視力が低下するという症状です。
高齢者がかかる病気だというイメージがあるかもしれませんが、交通事故によって白内障を発症することは珍しくありません。交通事故のケースでは、バイクや自転車の運転者に多発しています。
交通事故でバイクや自転車が衝突をしたときに、眼球に衝撃を受けたり、眼に何かが突き刺さると、水晶体が傷ついてしまいます。水晶体の損傷によって、水晶体の中が白く濁り、白内障を発症します。
このように、交通事故の衝撃によって白内障を発症することを、外傷性白内障(がいしょうせいはくないしょう)といいます。
交通事故以外でも、ゴルフのボールが眼に直撃した場合や、ボクシングの選手が顔面にパンチを受けた場合などに、外傷性白内障を発症することがあります。
(1)症状
白内障が進行すると、下の写真のように黒目の部分が白く濁ります。
正 常 外傷性白内障
適切な治療を行わなければ、症状はどんどん悪化してしまいます。白く濁った部分が次第に広がっていき、昼間は目も開けられないほど眩しく感じます。ものがぼやけて見えるようになり、視力もどんどん低下していきます。
このような状態をさらに放置すると、やがては失明してしまいます。失明のリスクを避けるためには、眼科で適切な治療を受けることが必要です。
(2)水晶体の役割
外傷性白内障(がいしょうせいはくないしょう)は、水晶体が白く濁って視力が低下するという症状です。
水晶体とは、見るものの距離に応じて厚みが変わる組織です。人間の眼球は、外界から光を取り入れた際に、まず角膜(かくまく)で光を約70%ほど屈折させます。さらに水晶体で残りの30%を屈折させます。
つまり、水晶体と角膜で光を屈折させることによって、対象物にピントを合わせることができるのです。
しかし、水晶体が濁ってしまうと、水晶体で光を屈折させることができなくなります。このため、対象物にピントをあわせることができなくなり、対象物がぼやけて見えたり、光を眩しく感じるようになります。
(3)治療
白内障の検査は、視力検査、眼圧検査、細隙灯顕微鏡検査(さいげきとうけんびきょう)、眼底検査(がんていけんさ)によって行います。
これらの検査によって白内障であると確定された場合は、手術を行います。
加齢による白内障の場合であれば、手術は非常に簡単です。時間は平均40分であり、日帰りでの手術も可能です。しかし、交通事故による白内障の場合は、眼球の損傷が大きいため、難易度の高い手術となります。
交通事故による白内障の場合は、チン小帯(しょうたい)という水晶体を支える筋肉が、半分以上切断していることが多いため、全身麻酔による長時間の手術が必要となります。
手術では、眼球内に眼内レンズを挿入します。眼内レンズとは、視力を矯正する器具です。
広い範囲でチン小帯を損傷している場合は、さらに難易度の高い手術となります。このような場合は、眼内レンズをチン小帯に乗せてもすぐに落ちてしまうため、眼内レンズを虹彩(こうさい)に直接縫い付けることになります。このため、手術の難易度が高くなり、手術の時間も長くかかります。
(4)後遺障害
交通事故によって外傷性白内障を発症すると、後遺症として「視力障害」や「羞明(しゅうめい)」が生じることがあります。
①視力障害
視力障害とは、視力が著しく低下することです。
詳しくは、こちらをご覧ください。
②羞明(しゅうめい)
羞明(しゅうめい)とは、光に対して通常よりもまぶしく感じたり、光がさすと目の周辺に痛みを感じることです。
瞳孔の対光反射が著しく制限されている場合は、著名な羞明を訴え、労働に著しい支障をきたすような深刻なケースであれば、後遺障害等級の対象となります。片眼の場合は後遺障害等級12級に、両眼の場合は11級に認定される可能性があります。
瞳孔の対光反射は認められるけれども不十分な場合は、羞名を訴え労働に支障をきたすレベルであれば、後遺障害の対象となります。片眼の場合は後遺障害等級14級に、両眼の場合は12級に該当する可能性があります。
以上をまとめると、下記の表のとおりになります。
いずれの後遺障害についても、ハロゲン・ペンライトによる対光反射検査(たいこうはんしゃけんさ)で立証します。
(5)遅発性(ちはつせい)の外傷性白内障
交通事故で水晶体を損傷した場合、すぐに症状が現れず、長期間かけて徐々に症状が進行することがあります。症状によっては、交通事故から3年ほど経過した後になって白内障を発症することもあります。遅い場合には、交通事故から10年以上経ってから白内障を発症することもあります。
このように遅れて発症する白内障のことを、「遅発性(ちはつせい)の外傷性白内障」といいます。
交通事故で水晶体を損傷した場合は、数年後に外傷性白内障を発症する可能性が十分に予想されます。慎重に示談手続きを行わなければいけません。
たとえば、示談書の項目として、「本件の示談締結後に外傷性白内障を発症した場合は、甲乙間で別途協議を行うものとする」という文言を表記しておくという方法があります。このような表記をしていなくても、数年後に改めて損害賠償請求を行うことができる可能性はありますが、手続きは複雑となります。上記のような表記をしていれば、数年後の手続きが比較的容易となります。
外傷性白内障は、失明の危険を有する重大な病気です。示談手続きを行う際には、くれぐれも用心深く対応しておくことが重要です。数年後に白内障を発症するリスクを十分念頭に入れて、リスクに対応した示談書を作成しておきましょう。
(6)弁護士に依頼することの重要性
外傷性白内障の示談手続きは、交通事故に精通した弁護士にご依頼されることをお勧めいたします。
白内障は加齢によって生じることが多い病気であるため、因果関係の立証を慎重に行わなければいけません。因果関係の立証とは、「交通事故によって白内障を発症した」ということを立証することです。「交通事故によって発症した」ということを立証することができなければ、損害賠償金の請求は認められません。
特に被害者が40代以上の場合は、因果関係の立証を慎重に行わなければいけません。相手方から「加齢によって白内障になったのではないか」「交通事故の前から白内障にかかっていたのではないか」と反論されるおそれがあるからです。
このような反論をくつがえすためには、医学的な資料を用いて説得的に因果関係の立証を行う必要があります。専門性の高い立証となりますので、交通事故に精通した弁護士にご依頼されることをお勧めいたします。
また、交通事故から何年か経った後に白内障を発症した方についても、弁護士にご依頼されることをお勧めいたします。既に何年か前に示談手続きを終了してしまったという方についても、改めて相手方に損害賠償金を請求できる可能性があります。
ただし、このようなケースは通常の示談とは異なり特に高度な立証が必要となります。なるべくお早めに弁護士にご相談することをお勧めいたします。
アジア総合法律事務所では、日頃から交通事故の解決に力を入れており、福岡をはじめとして全国各地からご相談を受け付けております。白内障の示談手続きについて詳しく知りたいという方は、お気軽にご相談ください。
当事務所には、年間約200件にのぼる交通事故・後遺障害のご相談が寄せられます。
多くは福岡県内の方ですが、県外からのご相談者もいらっしゃいます。