外傷性黄斑円孔(がいしょうせいおうはんえんこう)
外傷性黄斑円孔とは、網膜の中心である黄斑部に穴が開くという症状です。
交通事故の場合は、自転車やバイクの運転者が眼球を打撲したときに発症することが多いといわれています。
下記のイラストを見てください。イラストの右下に「黄斑」が描かれています。
(1)黄斑部(おうはんぶ)
人間の眼球の周辺は、「網膜」で囲われています。網膜は、眼球の中でも重要な役割を担っています。カメラにたとえるとフィルムの役割を果たしています。
人間がものを見るとき、光は角膜を通って瞳孔から眼球内に入り、光は水晶体で屈折されて、硝子体を通り、網膜に到達します。光が網膜に到達すると、網膜が光の刺激を感じ取って、その刺激を視神経を通じて脳に伝えます。脳が網膜からの情報を受け取ることによって、ようやく「見える」と認識します。
このように、網膜は重要な役割を果たしています。その網膜の中でも最も重要な部位が、中央にある黄斑部です。
黄斑部には、視力や色の識別に関係する細胞が存在しています。つまり、黄斑部では、対象物の形や大きさ、色、立体性、距離などの光の情報の大半を識別しています。
(2)症状
黄斑部に穴が形成されると、視力は大幅に低下します。眼鏡やコンタクトレンズで矯正しても、視力は0.1前後までしか回復しません。
また、視界の中心が見えにくくなるため、視野が狭くなります。
(3)治療
外傷性黄斑円孔を発症しても、症状が軽いケースであれば、治療を行わなくても自然に治癒します。
ただし、交通事故による外傷性黄斑円孔は、重症なケースがほとんどです。
3次元眼底像撮影やOCT検査(光干渉断層計検査)によって確定診断がなされます。
交通事故による外傷性黄斑円孔のケースでは、手術が行われることが一般的です。
交通事故から6ヶ月以内に手術を行えば、およそ90パーセント以上の確率で穴を閉じることができます。手術によって穴を閉じることができれば、視力が回復する可能性があります。
重症なケースになると、一度の手術で穴を完全にふさぐことができません。初回の手術によって穴を閉鎖することができなかった場合は、再手術が必要となります。再手術が必要となるような重症なケースでは、後遺障害が生じる可能性が高くなります。
(4)後遺障害
交通事故によって外傷性黄斑円孔を発症した場合、「外傷の程度」「黄斑円孔の大きさ」「発症後の経過期間」によって、後遺症の有無が決まります。
①黄斑円孔発症後の経過期間が短く、黄斑円孔が小さいケース
このような場合は、一度の手術で穴を閉じることができるため、短期間で治療が終了します。一度の手術で穴を完全に閉じることができれば、後遺障害が生じることはありません。
交通事故の直後に視力が大幅に低下したとしても、一度の手術で穴を完全に閉じることができれば、視力は回復します。
②外傷による損傷が激しく、黄斑円孔が大きいケース
このような場合は、一度の手術で穴を完全に閉じることができないため、治療に時間がかかります。治療に時間がかかればかかるほど、後遺障害が生じる可能性が高くなります。
後遺障害としては、「視力低下」や「白内障(はくないしょう)」が生じる可能性があります。
視力低下の後遺障害については、詳しくは「角膜穿孔外傷」内をご覧ください。
白内障の後遺障害については、詳しくは「外傷性白内障」をご覧ください。
なお、交通事故の直後に白内障の症状があらわれていなくても、何年後かに白内障を発症するおそれがあります。外傷による損傷が大きければ大きいほど、将来的に白内障を発症するリスクが高くなります。
(5)示談をする際の注意点
交通事故で外傷性黄斑円孔を発症した場合は、示談手続きを行うときに注意しなければいけないことがあります。それは、「示談手続きを行ったあとに何年も経ってから白内障を発症するおそれがある」ということです。
眼球の損傷態様によっては、交通事故の直後に白内障の症状が現れず、長期間かけて徐々に症状が進行することがあります。症状によっては、交通事故から3年ほど経過した後になって白内障を発症することもあります。
このように遅れて発症する白内障のことを、「遅発性の外傷性白内障(がいしょうせいはくないしょう)」といいます。
このため、外傷性黄斑円孔の示談手続きは、特に慎重に行わなければいけません。何年後かに外傷性白内障を発症する可能性を念頭に入れて、慎重に示談書を作成する必要があります。
たとえば、示談書の項目として、「本件の示談締結後に外傷性白内障を発症した場合は、甲乙間で別途協議を行うものとする」という文言を記載しておく方法があります。このような表記をしていれば、数年後の手続きが比較的容易となります。このような表記をしていなくても、数年後に改めて損害賠償請求を行うことができる可能性はありますが、難易度の高い立証が必要となるため手続きが複雑となります。
外傷性白内障は、失明の危険を有する重大な病気です。示談手続きを行う際には、数年後に白内障を発症するリスクを念頭に入れて、慎重に対応しておくことが重要です。
なお、上記で紹介した示談書の文言は、あくまで一般的な具体例です。お客さまの症状によって、示談書に記載するべき文言は異なります。どのような記載をすればよいのか分からないという場合は、一度当事務所にご相談ください。当事務所にご相談していただけば、弁護士がお客さまの症状を分析したうえで具体的なアドバイスをいたします。
アジア総合法律事務所では、日頃から交通事故の紛争解決に力を入れており、後遺障害の申請について豊富な実績と経験があります。福岡をはじめとして、全国各地からご相談を受け付けております。当事務所にご相談していただければ、後遺障害診断書を作成する際のポイントについて、法律的な観点からアドバイスをいたします。
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