大腿骨頚部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)
大腿骨(だいたいこつ)とは、股(また)の関節を構成している骨です。下記のイラストを見てください。大腿骨の上部は、3つの部位で構成されています。「骨頭(こつとう)」「頚部(けいぶ)」「転子部(てんしぶ)」です。
上のイラストから分かるとおり、大腿骨は、頚部(けいぶ)を支点として内側に曲がっています。曲がった骨で身体全体を支えているため、骨折しやすい傾向にあります。
このように、股の関節の曲がった部分を骨折することを「大腿骨頚部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)」と呼びます。
特に、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)で骨が脆く(もろく)なった高齢者は、大腿骨頚部を骨折しやすいといわれています。
(1)医学的な分類
股の関節の骨折は、医学的に3つに分類されます。
股の関節の中央部を骨折する「大腿骨頚部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)」と、膝(ひざ)に近い部分を骨折する「大腿骨転子部骨折(だいたいこつてんしぶこっせつ)」「大腿骨転子下骨折(だいたいこつてんしかこっせつ)」の3つです。
この3種類の中では、大腿骨頚部骨折が圧倒的に多いといわれています。
(2)症状
大腿骨頚部を骨折すると、交通事故の直後から痛みや腫れ(はれ)を感じます。大腿骨頚部は、股関節の内部の骨折であるため、腫れ(はれ)が目立たないこともあります。
股の関節を動かすたびに激しい痛みを感じるため、歩くことも困難となります。骨折の症状が比較的軽い場合は、受傷直後から歩けることがあります。
(3)治療
大腿骨頚部を骨折した場合、XP(レントゲン)では骨折を確認できないことがあります。このような場合は、MRIを撮影することが必要となります。
大腿骨頚部骨折は、症状によって下記の4つのレベルに分類されます。
Grade Ⅰ 不完全な骨折
Grade Ⅱ 完全骨折で転位のないもの
Grade Ⅲ 完全骨折で骨頭が回旋転位しているもの
Grade Ⅳ 完全骨折で、骨折部が離開しているもの
Grade ⅠとGrade Ⅱは、比較的症状が軽いケースです。骨折後に骨の位置がずれていないため、手術を行わずに治療をすることができます。
ただし、手術を行わない場合は、治療が長引いて寝たきりになるリスクがあります。このため、Grade ⅠとGrade Ⅱのような症状が軽いケースであっても、リスクを避けるために手術が実施されることが一般的です。
Grade ⅢとGrade Ⅳのケースは、骨折した部位の骨の位置がずれています。このようなケースでは、骨頭に栄養を送る血液の流れが遮断されてしまい、骨壊死を起こすリスクがあります。
このため、Grade ⅢとGrade Ⅳのケースでは、手術による治療が必要となります。手術によって骨頭を人工骨頭に置き換えます。このような手術を「人工骨頭置換術」と呼びます。
大腿骨頚部を骨折した場合、回復までに時間がかかることがあります。また、時間をかけて長期リハビリを行っても骨が完全に癒合しないことがあります。その理由としては、下記の4つが原因として挙げられます。
・骨折面が斜めになるため骨の癒合が進みにくく、変形したり偽関節を合併する可能性が高いこと
・頚部を走行している2本の動脈を損傷する可能性が高いため、
血行障害による骨癒合不良や骨頭壊死を合併する可能性が高いこと
・被害者が高齢である場合は、骨再生能力が低下しているため回復に時間がかかること
・交通事故のショックや加齢による意欲低下のため、効果的なリハビリが実行できないこと
(4)後遺障害
大腿骨頚部骨折では、「股関節の機能障害」と「股関節の痛み」の2つが後遺障害の中心となります。
機能障害とは、関節が自由に動かなくなる後遺症のことです。骨折した影響で関節を動かすことができる範囲が制限されてしまうことを、可動域制限(かどういきせいげん)と呼びます。
(5)痛みに関する後遺障害
痛みなどの神経症状が残った場合は、痛みそのものを理由として、後遺障害等級14級9号に認定される可能性があります。痛みが激しい場合は、後遺障害等級12級13号の対象となります。
後遺障害等級は、後遺障害診断書とその添付資料をもとに決定されます。同じような後遺症に悩んでいる場合であっても、後遺障害の申請の仕方によって、12級に認定される場合もあれば、14級に認定される場合もあります。
後遺障害の申請には、医学的知識だけでなく、法律的な経験則や専門的なノウハウが必要となります。痛みに関する後遺障害を申請する際には、交通事故に精通した弁護士にご依頼することをお勧めいたします。
(6)機能障害
股の関節に機能障害が生じた場合は、その程度によって後遺障害の等級が決まります。股の関節の機能障害の後遺障害等級は、3種類あります。
「股の関節の機能に障害を残すもの」と認定された場合は、後遺障害等級12級7号の対象となります。さらに重症なケースでは、「股の関節の機能に著しい障害を残すもの」の対象となり、後遺障害等級10級11号に認定される可能性があります。最も重症なケースでは、「股の関節が用を廃したもの」の対象となり、後遺障害等級8級7号に認定される可能性があります。
具体的には、下記の表に照らし合わせて後遺障害の等級が決まります。
膝屈曲と伸展 内転と外転 外旋と内旋
(7)弁護士に依頼することの重要性
後遺障害の等級は、股の関節が動く角度によって決まります。しかし、角度だけで決まるわけではありません。
大腿骨頚部骨折のケースでは、「骨折の形状」と「手術(オペ)の内容」「手術後の骨癒合」との整合性を立証することが重要となります。
特に、「手術後の骨癒合」の立証は非常に重要です。多くの場合、骨折後の骨癒合は、3DCT(スキャン)で立証します。ただしGradeⅠのケースでは、骨折線が不明瞭なことが多いため、MRI撮影によって立証することが必要となります。
以上のとおり、どのような点が重要なポイントとなるかは、被害者の症状によってケースバイケースです。症状によっては、XP(レントゲン)が有利な証拠となる場合もあれば、MRIが有用な証拠となる場合もあります。
被害者の方に最大限有利となる後遺障害診断書を作成するためには、交通事故に精通した弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
適切な示談金を獲得するためには、後遺障害の申請を慎重に行わなければいけません。同じような後遺症に悩んでいる場合であっても、後遺障害の申請の仕方によって、後遺障害等級が変わってしまうこともあります。
後遺障害等級が変わると、示談金も大きく変わります。個別事案によって金額は異なりますが、弁護士が交渉した場合は、後遺障害等級14級のケースではおよそ250万~300万円程度、後遺障害等級12級であればおよそ500万~1,000万円程度の賠償金額となる可能性があります。
当事務所では、日頃から交通事故の紛争解決に力を入れており、後遺障害の申請について豊富な実績と経験があります。大腿骨頚部骨折でお悩みの方は、いつでもお気軽にご相談ください。
(8)症状固定のタイミング
通常は、抜釘(ばってい)後に症状固定となります。抜釘のタイミングは、主治医が骨癒合を確認した時点です。一般的には、交通事故からおよそ6ヶ月後です。
早期に症状固定となった場合は、股関節の機能障害で後遺障害等級12級7号に認定される可能性が高くなります。
しかし、高齢者の場合はリハビリに時間がかかるため、症状固定の時期が遅くなる傾向があります。リハビリが長引いた場合には、1年以上かかるケースもあります。
リハビリに長い時間をかけてしまうと、後遺障害の申請の際に不利になる可能性があります。そのため、医師とリハビリの計画を相談する際には、慎重に検討しなければいけません。リハビリを長期間行うかどうかによって、後遺障害の等級が左右され、ひいては損害賠償金の金額も大きく変わってしまうからです。
個別の症状によって異なりますが、リハビリを6ヶ月程度で切り上げた場合は、後遺障害等級12級に認定される可能性が高くなります。一方で、1年以上かけてリハビリを行った場合は、後遺障害14級に認定されるか、非該当となる可能性が高くなります。
後遺障害等級が12級か14級かによって、損害賠償金は大きく異なります。個別事案によって金額は異なりますが、弁護士が交渉した場合は、後遺障害等級14級のケースではおよそ250万~300万円程度、12級であればおよそ500万~1,000万円程度の賠償金額となる可能性があります。
後遺障害の等級は、症状固定時の骨の状態によって決まります。つまり、症状固定のタイミングによって後遺障害の等級が大きく左右されます。
つまり、リハビリを早期に切り上げて早めに症状固定とした方が、損害賠償金が高くなる可能性があります。もちろん損害賠償金が高くなるかどうかは具体的ケースによって異なりますので、全ての方がリハビリを早めに切り上げるべきだというわけではありません。
長期のリハビリを行ったことによって症状固定の時期が遅くなると、後遺障害の審査の際に不利となる可能性があります。一方で、症状固定の時期を早まってしまうと、治るはずの症状が十分に改善しないかもしれません。どちらを選択するべきかは、個別の症状によって異なります。
どれくらいの時間をかけてリハビリを行うべきかは、個人の症状によって異なります。主治医と十分にご相談したうえで、慎重に決定してください。
主治医と相談しても決断できないとお悩みの方は、福岡のアジア総合法律事務所にご相談ください。当事務所では、治療中の方からのご相談も承っております。弁護士が個別の症状をお聞き取りしたうえで、症状に即して法律的なアドバイスを行います。当事務所では、福岡のみならず、九州、全国からご相談やご依頼を受け付けておりますのでお気軽にご相談ください。
リハビリをどれぐらい行うべきかは、被害者の症状によって異なります。お悩みの方は、主治医や弁護士と十分にご相談したうえで、慎重に判断しましょう。
当事務所には、年間約200件にのぼる交通事故・後遺障害のご相談が寄せられます。
多くは福岡県内の方ですが、県外からのご相談者もいらっしゃいます。