心膜損傷、心膜炎(しんまくそんしょう、しんまくえん)
1.心膜とは
心膜は、心臓を包み込んでいる二重の膜で、内側を心内膜、外側を心外膜と呼びます。
心膜は柔らかいテニスボールが押しつぶされた形状で袋(嚢)をつくります。その上に心臓が置かれ、心臓のほぼ全体を密に包み込んでいます。テニスボール状の2枚の心膜の中は、心嚢と呼ばれています。
心内膜と心外膜の間隙は、心膜腔と呼ばれ、15ml程度の心膜液で満たされています。
2.心膜の役割
心膜は、3つの役割があります。
①心臓の過剰な動きを制御する
②心臓の過度の拡張を防止する
③肺からの炎症の波及を防止する
そして、心膜液は、二重の心膜間での摩擦を軽減しています。
3.心膜損傷の原因と症状
心膜損傷は、交通事故や高所からの転落により、相当に大きな外力や剪断力が胸部に動いたときに発症します。
心膜炎は、外傷を原因として心膜に炎症が起こることをいいます。
心膜炎の症状は、胸部痛、発熱、胸部圧迫感です。 心膜が炎症すると、しばしば心膜液の貯留を伴います。
心膜液が増えることにより心臓を周りから圧迫し、心臓の拡張を妨げることがあり、短期間に大量の心膜液が貯留すると、心タンポナーデ等重篤な症状に至ります。
【心タンポナーデ】
心タンポナーデとは、心臓の周囲を覆う心嚢と呼ばれる空間に液体が大量に溜まることによって心臓の運動が制限される状態をいいます。心タンポナーデを発症すると、全身に血液を送る心臓の働きが阻害されるため血圧が低下し、最悪の場合、死に至ることもあります。
心タンポナーデでは全身への血液供給が不安定となるため、血圧低下が起こります。また、全身の血圧低下に関連して、意識障害や呼吸困難、胸の苦しさも訴えます。外傷性や心筋梗塞後の心破裂などの場合は、急速に症状が現れて悪化し、ショック死することもあります。
一方、慢性的に徐々に液体が心嚢に貯留する場合、初期症状は無症状ですが、液体成分が増えるにつれて、ゆっくりと息苦しさや呼吸困難を訴えるようになります。
4.交通事故における心臓損傷、心膜炎と後遺障害等級
外力により心膜が損傷しても、心臓に大きな損傷がない場合には心膜の損傷は治療されないことが多いです。
また、心筋挫傷で、外科的治療を行ったときでも、心膜の開口部は閉鎖しないこともあります。
心膜に開口部を残し、心機能に傷害を残すときは後遺障害の対象となりますが、心機能に障害を残すことが少なく、心膜損傷の傷病名と心膜の開口部を残すだけの場合、後遺障害認定の対象とはなりません。
もっとも、心膜が損傷したことにより心臓の一部が脱出・嵌頓(かんとん)(内臓器官が組織の間隙から飛び出しそのまま腫れて戻らなくなった状態のこと)したときは、心筋や冠動脈を圧迫、損傷することがあります。この場合、心筋や冠動脈の障害を立証することで等級の認定を得ることとなります。
心膜の器質的損傷、肥厚、癒着などにより心臓機能が障害される場合、心膜が心臓の拡張を妨げていることから、心機能の障害のレベルを立証し、等級の認定を得ることになります。
障害の程度は、心筋梗塞の症状に準じて審査されています。
立証については、心臓の器質的損傷が画像所見により確認でき、心機能の低下をもたらすことが検査で立証でき、かつ、医師が認めるものである必要があります。
心臓の器質的損傷、肥厚、癒着などにより心臓機能が障害されているときは、心膜の切除などで障害の軽減が実現できることが知られており、治療現場では積極的に手術を適応し、大きな心機能障害を残さないことが医学的な常識となっているようです。
心臓の器質的損傷、肥厚、癒着などを残し、心機能の低下による運動耐容能の低下が軽度にとどまるものは、11級10号が認定されています。
11級10号:胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当程度の支障があるもの
心膜の器質的損傷、肥厚、癒着などを残し、心機能の低下による運動耐容能の低下が中等度にとどまるものは、9級11号が認定されています。
9級11号:胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
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