眼瞼(まぶた)の外傷
交通事故でまぶた周辺に衝撃を受けると、後遺症が生じることがあります。まぶたは繊細な構造をしているため、後遺症が生じやすい部位となっています。
まぶたの外傷による後遺障害としては、主に3種類あります。「運動障害」と「欠損障害(けっそんしょうがい)」「醜状障害(しゅうじょうしょうがい)」です。
(1)まぶたの構造
まぶたを拡大して見ると、下記のような構造をしています。
まぶたの皮膚は、まつ毛側に近づくにつれて薄くなり、眉毛側は分厚く固い皮膚となっています。
まぶたのすぐ下には、「眼輪筋(がんりんきん)」という筋肉があります。眼輪筋は、皮膚と密に癒着しており、まぶたを閉じる役割を持っています。
眼輪筋の下には、脂肪の層があります。脂肪の層の下には、「瞼板(けんばん)」があります。瞼板は、目の縁(ふち)に付いている軟骨のことです。
まぶたを開ける役割を果たしている筋肉は、2種類あります。「眼瞼挙筋(がんけんきょきん)」と「ミュラー筋」です。この2つの筋肉は、どちらも瞼板(けんばん)に付着しています。
(2)まぶたの外傷
交通事故によるまぶたの外傷には、代表的なものとして下記の5種類があります。
①まぶたの打撲による腫脹(しゅちょう)
②まぶたの皮下出血(ひかしゅっけつ)
③まぶたの切創(せっそう)・裂傷(れっしょう)
④外傷性(がいしょうせい)眼瞼下垂(がんけんかすい)
⑤涙小管(るいしょうかん)断裂(だんれつ)
下記では、「①まぶたの打撲による腫脹」と「②まぶたの皮下出血」「③まぶたの切創・裂傷」について解説します。
④⑤については別の項目で解説していますので、そちらを参考にしてください。
(3)まぶたの打撲による腫脹(しゅちょう)
上下のまぶたを打撲すると、軟部組織に腫脹(しゅちょう)ができることがあります。
交通事故のケースでは、自転車やバイクの運転者に多発しています。眼球内に炎症が及んでいなければ、安静とアイシングによって治療をすれば、1週間前後で完治します。
一般的には、後遺障害が生じることはありません。
(4)まぶたの皮下出血
上下のまぶたを打撲すると、まぶたの皮下血管が損傷を受けることがあります。
このような場合、まぶたの血管に内出血が生じて、眼の周りが黒ずんだり、皮膚が紫色に腫(は)れることがあります。重症なケースでは、目が開けられなくなることもあります。
視力や眼球運動に異常がなければ、安静とアイシングによって治療を行います。多くの場合、1〜2週間で治癒します。
一般的には、後遺障害が生じることはありません。
(5)まぶたの切創(せっそう)・裂傷(れっしょう)
交通事故で眼球を打撲した場合、まぶたに切り傷が生じることがあります。
まぶたは繊細な組織なので、切り傷を負うと深刻な出血を伴います。しかし、厚く重ねたガーゼで15分ほど圧迫すると、すぐに出血は止まります。止血した後に、眼科か形成外科で縫合(ほうごう)してもらいます。
一般的には、2週間ほどで治療は完了します。
ただし、複雑で大きな裂傷(れっしょう)を負った場合は、まぶたに瘢痕(はんこん)が残ることがあります。瘢痕(はんこん)とは、「傷あと」のことです。
まぶたに瘢痕(はんこん)が残った場合は、醜状障害(しゅうじょうしょうがい)として後遺障害を申請することができます。
醜状障害(しゅうじょうしょうがい)とは、人目につく場所に傷あとが残った状態のことです。
10円銅貨よりも大きい瘢痕(はんこん)が残った場合は、後遺障害等級12級14号に認定される可能性があります。線状の傷あとの場合は、傷あとが3センチ以上であれば後遺障害等級12級14号の対象となります。
醜状障害(しゅうじょうしょうがい)に認定されるかどうかによって、示談金が大きく変わる可能性があります。個別事案によって金額は異なりますが、弁護士が交渉した場合は、後遺障害等級12級であればおよそ500万~1,000万円程度の示談金となる可能性があります。後遺障害等級14級のケースでは、示談金の相場はおよそ250万~300万円程度ですので、醜状障害に認定されるかどうかによって、示談金が大きく増加する可能性があります。
上記はあくまで参考として挙げた金額ですので、個別事案によって具体的な金額は異なります。具体的なアドバイスをお聞きしたいという方は、一度当事務所までご相談ください。交通事故のご相談は初回は無料で受け付けておりますので、ご予算を気にすることなくお気軽にご相談ください。
なお、まぶたを切創(せっそう)した場合、角膜(かくまく)や強膜(きょうまく)が切断していることがあります。このようなケースでは、失明をする可能性が高くなります。このようなリスクを避けるためには、交通事故で受傷した直後に眼科を受診することが重要です。
特に、交通事故の直後に視力が低下した場合は、注意が必要です。視力が低下して、見えにくいと感じた場合は、ただちに眼科医を受診しましょう。
交通事故で鼻から出血した場合も、同様に注意が必要です。このようなケースでは、「前房出血(ぜんぼうしゅっけつ)」「網膜震盪症(もうまくしんとうしょう)」「外傷性虹彩炎(がいしょうせいこうさいえん)」「虹彩離断(こうさいだんり)」「水晶体脱臼」「眼球破裂」「眼窩底(がんかてい)吹き抜け(ふきぬけ)骨折」「視神経管(ししんけいかん)骨折」を発症している可能性があります。ただちに眼科医に診察してもらうことが必要です。
交通事故の直後に、体を揺すったり、顔を動かしたり、目を圧迫すると、眼球の内容物が流れ出してしまうおそれがあります。交通事故で眼球に傷を受けた場合は、なるべく頭部に振動を与えないように注意しましょう。
傷を受けていない方の眼についても、注意が必要です。傷を受けていない場合であっても、「交感性眼炎(こうかんせいがんえん)」という炎症を起こす可能性があります。
「交感性眼炎(こうかんせいがんえん)」については、下記で詳しく説明します。
(6)交感性眼炎(こうかんせいがんえん)
交通事故でぶどう膜を損傷すると、受傷した眼とは反対側の眼に炎症が起こることがあります。このような症状を「交感性眼炎(こうかんせいがんえん)」といいます。
「ぶどう膜」とは、虹彩(こうさい)・毛様体(もうようたい)・脈絡膜(みゃくらくまく)をまとめて呼ぶ総称です。
交感性眼炎は、「肉芽腫性(にくげしゅせい)ぶどう膜炎(まくえん)」とも呼ばれます。交通事故で外傷を受けた後や、手術を受けた後に、稀に発症することがあります。
交通事故で外傷を受けると、色素細胞(しきそさいぼう)が免疫系にさらされることになります。ぶどう膜は色素に富んでいるため、自己免疫反応が起こり、反対側の眼に炎症が生じると考えられています。
交感性眼炎(こうかんせいがんえん)の典型的な症状としては、「飛蚊症(ひぶんしょう)」と「視力低下」の2種類があります。
飛蚊症(ひぶんしょう)とは、何も無いところに虫が飛んでいるように見える症状のことです。暗い場所では気になりませんが、明るい場所や白い壁を見たときに、虫が飛んでいるように感じます。
交感性眼炎(こうかんせいがんえん)を発症すると、「蛍光眼底(けいこうがんてい)造影検査(ぞうえいけんさ)」や「髄液(ずいえき)検査」が実施されます。
血液検査では、「白血球の増多」「赤沈(せきちん)の亢進(こうしん)」「CRP陽性化」などの炎症性の反応を調べます。
治療としては、ステロイド薬の大量点滴やパルス療法が行われます。免疫抑制薬(めんえきよくせいやく)が使われることもあります。
交感性眼炎の発症を予防するために、受傷した眼球を摘出することもあります。もちろん、受傷した眼球が回復する可能性がある場合には、摘出することはありません。眼の機能を全く果たしていない場合や、治療しても回復する見込みがない場合に限って、眼球の摘出が検討されます。
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多くは福岡県内の方ですが、県外からのご相談者もいらっしゃいます。