後遺障害事例

肘の内側々副靱帯損傷(ひじのないそくそくふくじんたいそんしょう)

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1.内側々副靱帯損傷とは

交通事故に遭うと、内側々副靱帯損傷という傷病名がつくケースがあります。

これは、肘の症状の1種ですので、まずは肘の構造を理解しましょう。

肘関節は、上腕と前腕を連結する関節です。上腕骨と橈骨、尺骨の3本の骨によって構成されています。前腕部の内側、小指側にあるのが尺骨で、外側、親指側にあるのが橈骨です。

肘関節の両側に、「側副靱帯」という組織があります。これは、肘関節が横方向に曲がらないように作用しているものです。

今回問題となる「内側々副靱帯」は、上腕骨と前腕内側の尺骨を連結している靱帯です。なお、上腕骨と前腕外側にある橈骨を連結している靱帯のことを「外側々副靱帯」と言います。

交通事故に遭うと、自転車やバイクから転落して手をついたときなどに肘に強い衝撃が走り、内側々副靱帯を損傷するケースがあります。このときの症状には、肘関節脱臼に伴う損傷のケースと単独損傷の2種類のパターンがあります。

 

2.内側々副靱帯損傷の症状と治療方法

内側々副靭帯損傷になると、受傷直後に肘に激痛が走り、腫れが出現します。痛み強いために肘関節を動かせなくなります。また、上腕骨内側上顆の下端に圧痛、外反位で疼痛が強くなり、不安定性が認められます。

レントゲンでは判別が難しく、MRIやエコー検査によって確定的な診断をします。

治療方法としては、23週間のギプス固定をして、その後ギプスをカットしてリハビリを開始します。

 

3.外側々副靱帯損傷について

外側々副靭帯損傷についても、確認しておきましょう。

外側々副靱帯損傷は、肘関節の脱臼に伴うケースがほとんどです。受傷後一定の時間が経過してから、肘が外れそうになる感じがします。

受傷後にこの症状が疑われる場合には、後外側回旋不安定テストを実施して、肘が外れそうな感じと「クリック音」を確認します。

子どもが上腕骨に上顆剥離骨折を伴う外側々副靭帯損傷を受けた場合には、骨片の整復固定術という手術が必要となります。外側々副靱帯損傷が陳旧性の場合、「靭帯再建術」を選択します。なお、陳旧性とは、症状が慢性期に移行した場合を言います。

 

4.内側々副靱帯損傷のさまざまな手術方法

次に、内側々副靱帯損傷で知られている手術方法を、いくつか紹介します。

 

4-1.トミー・ジョン手術について

内側々靱帯損傷は、野球選手に多い症状です。ピッチャーがボールを投げるために加速をつけるとき、肘の内側が不自然に延びて、内側々副靱帯が引き伸ばされるためです。投球動作を反復していると、内側々副靱帯が引っ張られ続けて、肘への負担が大きくなり、側副靱帯が部分断裂するのです。

スポーツ選手が内側側副靱帯を断裂したとき、「トミー・ジョン手術(TJ術)」が有効になるケースがあります。この手術は、1974年、フランク・ジョーブという博士が、ドジャースのピッチャーであった「トミー・ジョン」」という選手の内側々副靱帯断裂に対し、実施したオペです。手術後、トミー・ジョン選手は、見事復活を果たしました。

TJ術は、断裂してしまった内側側副靱帯を摘出して、「長掌筋腱」という組織を移植する手術です。

現在の第一人者は、アメリカスポーツ医学研究所に在籍する「ジェームズ・アンドリュース」という医師の方です。

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TJ術の移植元となる「長掌筋」は、手首を曲げるための筋肉です。拳を握ると、手首の部分に腱がむき出しになりますが、これが長掌筋の腱です。長掌筋と同じ働きをしている筋肉は他にもあるので、移植のために長掌筋を外しても、特に問題になりません。

TJ術を施すと、靱帯が定着するために時間がかかるので、長期のリハビリが必要です。1年以上かかることもありますが、成功例が多く、成功率は90%を超えます。

ただ、この手術は、誰でも受けられるものではなく日本の交通事故患者の方が受けることは難しいこともあります。

以前に福岡で弁護士にご相談に来られた方に、右肘内側側副靱帯損傷がほぼ完治していたのですが、痛みがあるとおっしゃられて「アメリカでTJ術を受けたい」とご希望される方がおられました。

ただ、TJ術は、アメリカに行ったからと言って、誰でも受けられるものではありませんし、ほとんど完治しているのであれば、TJ術を受けるべき理由がありません。

また、アメリカでTJ術を受けるとしても、保険会社が治療費の負担を拒絶する可能性が高くなります。

不必要に過剰な治療方法であるとされて治療費を支払ってもらえないのであれば、TJ術は有名ではありますが、あまり現実的な方法にはなりません。

 

4-2.伊藤法について

日本では、伊藤恵康医師(慶友整形外科病院)が考案した「伊藤法」という手術が有名で、同じく野球選手でこの手術を受けた方もおられます。

 

5.肘内側々副靱帯損傷における後遺障害のポイント

5-1.適切な治療が行われた場合には治癒しやすい

交通事故で内側々副靱帯損傷となった場合、軽度から中等度のケースであれば、テーピングや短期間ギプス固定をすると完治しやすいです。かかる期間は、リハビリも含めて3ヶ月程度です。

強烈な打撲をして靱帯が引きちぎられた場合でも、適切な治療が施されて、靱帯縫合やギプス包帯とリハビリを行えば、改善できるので、後遺障害は残りにくいです。

 

5-2.適切な治療が行われなかったケース

問題は、適切な治療が行われなかったケースです。

交通事故で軽度な内側々副靱帯損傷となったとき、医師から「少し、肘関節が緩くなっていますが、湿布をして様子を見ましょう」と言われたり、ギプス固定の後に、適切な方法でリハビリが実施されなかったりすることがあります。

そのような場合、肘関節が拘縮して固まり、機能障害が残りやすくなります。

ケース1

弁護士としての過去の交通事故の取扱い事例でも、肘関節の拘縮により、後遺障害1010号を獲得した経験があります。

その事例では、被害者は十分な治療を受けていなかったために関節が拘縮したのですが、自賠責の調査事務所は、「被害者が意図的にリハビリを受けなかったのではないか」と疑念を抱いたため、当初認定されたのは、1213号でした。

しかし、実際に被害者は、1か月に16回程度のリハビリ治療を受けていましたし、治療内容が温熱療法だけであったとはいえ、「その問題を被害者の責に帰するべきではない」として異議申し立てをしたところ、1010号が認定されました。

ケース2

もう一例、ご紹介します。

その交通事故のケースでは、被害者は肘関節打撲と診断され、内側側副靱帯損傷が見落とされました。

結果として、その方の側副靱帯は緩んだままになってしまい、不安定性が残ったまま症状固定しました。この事案では、側副靱帯の損傷をMRIにより立証し、不安定性をストレスXP撮影によって立証できたため、126号を獲得しました。

ケース3

もう1つ、左内側々副靱帯損傷が見落とされた例があります。

この方の場合、交通事故後にMRI撮影すら行われずに症状が見逃され、ご相談に来られたときには既に交通事故から2年が経っていました。

レントゲン画像は残っていましたが、それを見ると、尺骨が亜脱臼気味になっていることがわかりました。

MRI撮影を実施すると、内側々副靱帯損傷がほとんど断裂して、陳旧化していました。

左肘は、「変形性肘関節症」になって肘の可動域が低下しており、遅発性尺骨神経麻痺によって薬指の外側と小指のしびれが残り、握力も低下していました。左手部分には、軽度の骨間筋萎縮も認められました。

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この方の場合、側副靱帯損傷をMRIによって立証し、尺骨亜脱臼をCT3Dによって立証、遅発性尺骨神経麻痺については神経伝達速度検査によって立証できたため、変形性肘関節症に起因する肘の機能障害によって後遺障害126号、遅発性尺骨神経麻痺によって1010号、併合9級の認定となりました。

 

 

以上のように、交通事故で肘の内側々副靱帯損傷となった場合、まずは症状を見逃さずに適切な処置を受けることが重要です。もしも見逃されてしまった場合には、きちんと後遺障害認定を受けることが必要となります。

交通事故に遭って後遺障害認定請求を進めるときには、一度アジア総合法律事務所の弁護士までご相談下さい。

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