肘関節と手関節、橈骨と尺骨の仕組み
1.はじめに
交通事故の後遺障害のうち、上肢の障害には、①欠損障害、②機能障害、③変形障害、があります。これらの障害の有無や程度は、上肢の3大関節、すなわち、肩関節、ひじ関節、手関節に着目して判断されます。
橈骨と尺骨の仕組みを理解することで、ひじ関節と手関節の機能障害について正しい判断をすることができます。
2.橈骨と尺骨の位置関係
下記のイラストは、ひじ関節と手関節、橈骨と尺骨の位置関係のイメージ図です。
前腕部には橈骨と尺骨という長管骨が2本あります。手のひらを上に向けた状態では、前腕の親指側(外側)に橈骨、小指側(内側)に尺骨が位置しています。
上記イラスト図のうち、まずはひじ関節をご覧ください。
ひじ関節で重要な役割を果たしているのは尺骨です。上腕骨を尺骨がきちんと受け止め、ひじ関節を形成していることが分かります。橈骨は尺骨に寄り添っているだけです。
つぎに、上記イラスト図の手関節をご覧ください。
手関節で重要な役割を果たしているのは橈骨です。橈骨の遠位端部と手根骨(8つの手根骨のうち、親指側から見て舟状骨、月状骨、三角骨の3つ)が集まって手関節を形成していることが分かります。尺骨は橈骨に寄り添っているだけです。
このように、ひじ関節では橈骨が、手関節では尺骨が、それぞれ不安定な構造になっていることから、交通事故による外部的なダメージを受けやすいのです。
3.前腕の回内・回外運動
上肢の3大関節(肩関節、ひじ関節、手関節)のうち、肩関節は腕を方向付け、ひじ関節は腕の長さを調節します。ひじ関節が適切に機能することで初めて、人は人体の周辺のあらゆる空間で腕を有効に機能させることができるのです。
手のひらの回内運動と回外運動を見てみましょう。これらはひじ関節特有の動きです。
上記のイラスト図をご覧ください。
ひじを曲げ、手のひらを上に向けた状態から下に向ける動作を回内運動、反対の動作を回外運動といいます。
手のひらを下に向ける回内運動では、橈骨と尺骨が交差して×印を形成します。これに対し、手のひらを上に向ける回外運動では、橈骨と尺骨は平行に並びます。
これをひじ関節のほうから見ると、橈骨は、上腕骨の延長線上ではなく、少し外れた位置で、上腕骨とつながっている尺骨の周りをくるくる回っています。つまり、回内運動や回外運動では、尺骨を軸として橈骨が動いていることになるのです。
橈骨は、ひじ関節の周りにある軟骨、筋肉、腱にサポートされながら安定性を保っています。これに対し、尺骨は、手関節の周りにある軟骨、筋肉、腱にサポートされながら安定性を保っています。
4.ひじ関節に発生する外傷
交通事故の外傷のうち、ひじ関節に発生するものは、橈骨頭骨折、肘関節の脱臼骨折、肘頭骨折、尺骨鉤状突起骨折があります。
このうち、単独損傷で転位(骨が本来の位置からずれること)の小さなものは、通常は後遺障害を心配する必要はありません。
しかし、橈骨頭骨折に鉤状突起骨折や肘関節後方脱臼を合併したときは、ひじ関節や手関節に大きな機能障害を残す場合があります。
これらの外傷によって前腕の回内運動に機能障害が発生すると字を書くことができなくなりますし、前腕の回内・回外運動が阻害されると窓を拭くなどの動作が困難となります。これらは後遺障害の等級認定では重く扱われることはありませんが、日常生活を送る際に深刻な影響を残してしまうのです。
5.後遺障害等級
前腕の回内運動と回外運動の正常値(参考可動域角度)は、それぞれ90°です。
回内運動と回外運動が健康な側の可動域角度の4分の1以下に制限されると、「関節の機能に著しい障害を残すもの」に準じて第10級10号が認定されます。
回内運動と回外運動が健康な側の可動域角度の2分の1以下に制限されると、「関節の機能に障害を残すもの」に準じて第12級6号が認定されます。
ただし、手関節部またはひじ関節部の骨折等により、手関節またはひじ関節の機能障害と回内・回外の可動域制限が発生したときは、どちらか重いほうの等級が認定されます。なぜなら、手関節部を骨折したときは、手関節と回内・回外に障害が残り、ひじ関節部を骨折したときは、ひじ関節と回内・回外に障害が残ることが一般的だからです。
6.最後に
交通事故によって外傷を負った場合には、症状を適切に把握して、発現した症状に応じた後遺障害の等級認定を得なければなりません。後遺障害の申請には医学的な知識やそれに基づいた立証が重要になってきますので、後遺障害の申請をお考えの方は弁護士相談をご検討ください。
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